SENRYU REVIEW

それいゆるうぺ

「蜂」会員による一句評を掲載しています。毎日更新。

できるようになってできないようになる

佐藤みさ子『呼びにゆく』(あざみエージェント、2007年)

「できない」ことが意外と難しい、とおもうのは、たとえば「10+10=20」という足し算が「できる」ようになっても、それより桁のちいさい「1+1=2」が「できない」ようにはならない、だろう。でも、短歌や川柳を作り始めた頃の作品を見返して、これはもう書けない、とおもうことがある。最初のころのようなものを書きたいとおもっても、自然と身についた作品に対する審美眼や技術が本能的に邪魔をして、できない、ということがあるかもしれない。この感覚は「できるように」ならなければ、分からない。「できるように」ならなければ、「できない」ことが、できないのだ。短歌の入門書を読んだりすると、歌の改悪例のようなものが示されることがある。いい歌を、わざわざ悪い歌に手直しして、その歌のどういうところがいいのか、読者に教えている、「できる」ようになったひとが、「できなくなった」歌の作り方をやってみせる。だから、できるようになってできないようになる/佐藤みさ子、の、「できる」ということは、白紙に文字を書いておぼえていくような垂直な成長の線のことをいっているのではなく、書いた文字をどう扱うかという水平の可能性の線のことだとおもう、能力を獲得する、ということは、同時になにか大きな欠落をもつ、そういう「できる」のことをいっているのだとおもう。一読してこの句に心惹かれるのは、この欠落したものの大きさが、わたしたちに想起されるからだ、できるようになった、でも、できないようにもなった、なにかが。

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